パターン認識

どこにでもあるような目立たないコンクリートブロックが、太平洋を挟んで対峙する2つの島々の風土や歴史を静かに物語る

写真=ダーウィン・リンコ
文:
ティモシー・A・シューラー
写真:
ジェラード・エルモア、ジョン・フック、ダーウイン・リンコ
訳:
チング毛利明子

10年前、妻と私はハワイのワイキキにあったアパートに住んでいた。そして、アパートの周辺を散策しているときに、ある建築要素が随所に使われていることに気付いた。それは小さくて中が空洞のコンクリートブロック。まるで子どもが切り紙細工で作った雪の結晶の立体版のようなパターンが中央にあしらわれていた。一つの壁に何十、何百ものブロックが積み重ねられ、さらに大きく複雑な模様を生み出している。どっしりとした安定感がありつつも、どこか儚い得も言われぬ魅力が醸し出されている。私は、その独特の建築美にすっかり魅了されてしまった。

これはなんと呼ばれるものなのだろう? 写真を撮って、インスタグラムに投稿してみた。答えを教えてくれたのはウェイ・ファンさんだった。「#ブリーズブロック」。彼女は一言こう答えた。

ブリーズブロックは世界各地で見られ、ブラジルではコボゴと呼ばれている。オーストラリアでは、大手メーカーの社名にちなんでベッサー・ブロックと呼ばれることもある。そして、沖縄では
「花ブロック」として親しまれている。中城村出身の建築家である仲座久雄さんが、琉球の伝統織物「花織(はなうい)」に着想を得て普及させた花ブロックは、沖縄の戦後復興の象徴としても知られ、今でも県内の随所で見られる。

右上から時計回りに:南風原町にある沖縄看護研修センター とオキナワ・デンタルオフィス、那覇市にあるケアハウス てぃん さぐぬ花
コンクリート製造技術の進歩、人件費および石材や木材などの 従来の建材の高騰もあいまって、日差しを程よく遮りつつ、風通しも よく、費用対効果にも優れている、この装飾的なコンクリートブロッ クは、香港やホノルルそして那覇などの高温多湿地域でとりわけ 人気を博した。
花ブロックは熱質量が高い。つまり、日中に太陽熱を吸収し、夜間 に 放 出 す る と い う 利 点 が あ る た め 、パ ー ム ス プ リ ン グ ス の よ う な 砂 漠 地 帯 に も 適 し て い る 。イ ス ラ ム 建 築 の 格 子 窓「 マ シ ュ ラ ビ ー ヤ 」 のように、花ブロックは地理的な影響を受けた気候対応型建築の 一例であり、ヨーロッパのブリーズソレイユやインドのジャリのより がっしりとした現代版なのだ。
1950年代から70年代にかけて、世界中で装飾的なコンクリー ト ブ ロ ッ ク の 塀 や 壁 が 普 及 し た 。当 時 ホ ノ ル ル は 、ち ょ う ど 準 州 か ら 州 に な っ て す ぐ の 建 築 ブ ー ム の 真 っ 只 中 だ っ た 。ホ ノ ル ル の 建 築 家 、 ジ ェ イ ソ ン ・ セ リ ー さ ん は い う 。「 ホ ノ ル ル で は 同 じ よ う な デ ザインのプランテーションタイプの家が多く建てられました。だ か ら 、決 め ら れ た モ ジ ュ ー ル に お い て 、建 築 家 が よ り 自 由 に 創 造 性を発揮できた唯一の領域がブリーズブロックのパターンだった のです」と。
沖縄では、推定10万戸の家屋が破壊されたという第二次世界大 戦 後 の 数 年 間 に 、コ ン ク リ ー ト 建 築 が 急 速 に 広 ま っ た 。そ し て 、今 では各所で見られる花ブロックが誕生したのだ。従来の建築資材 の高騰や米軍の建設技術の導入も、この普及を後押しした。ハワ イと同様に、花ブロックは装飾的でありながら島の亜熱帯気候に 適 応 し 、台 風 や シ ロ ア リ と い っ た 自 然 の 脅 威 に も 強 い と い う 実 用 性を備えたものだった。
さ ら に 、コ ン ク リ ー ト ブ ロ ッ ク は 安 価 に 製 造 で き た 。た っ た 一 つ の 型 か ら 何 千 も の ブ ロ ッ ク を 作 れ た の だ 。戦 後 、沖 縄 各 地 に 米 軍 基 地 が 設 置 さ れ る と 、コ ン ク リ ー ト 石 工 会 社 が 次 々 に 誕 生 し 、建 築 家 が カ タ ロ グ か ら 選 択 で き る よ う に 、標 準 化 し た 形 状 や パ タ ー ン のブロックを製 造しはじめた。
花 ブ ロ ッ ク は 、仲 座 さ ん を は じ め 多 く の 建 築 家 の 遊 び 心 を く す ぐ っ た 。一 つ の ブ ロ ッ ク を 裏 返 し た り 、上 下 を 逆 さ ま に し た り す る こ と で 、新 た な パ タ ー ン を 作 り 出 せ た の だ 。そ れ は 、建 物 の 外 観 を 装 飾 す る ま っ た く 新 し い 手 法 で あ り な が ら 、子 ど も 時 代 の ワ ク ワ ク するブロック遊びを思い起こさせるような懐かしさも感じさせて くれた。
今 日 、花 ブ ロ ッ ク は 沖 縄 の 建 築 に は 欠 か せ な い「 沖 縄 ら し さ 」を 表 象 す る 要 素 の 一 つ だ が 、こ の 装 飾 的 な コ ン ク リ ー ト ブ ロ ッ ク が 一 般に受け入れられるには時間がかかった。学者の磯部直樹さんに よ る と 、花 ブ ロ ッ ク は も と も と「 異 形 ブ ロ ッ ク 」と 呼 ば れ て い た 。戦 前の沖縄では、石積みの建物は家畜小屋や農具小屋であり、否定 的 な イ メ ー ジ が あ っ た の か も し れ な い と い う 。磯 部 さ ん は 花 ブ ロ ッ ク の 普 及 と 名 称 の 変 遷 が「 石 造 へ の 拒 否 反 応 」を 和 ら げ 、そ の 後 のコンクリート建築ルネッサンスの下地を作る役割を果たしたの ではないかと推論している。
建築の真髄は、その土地らしさを伝えることにある。それは、過去 の 世 代 の 人 び と が ど の よ う に 暮 ら し 、何 を 大 切 に し て き た の か 、 な ぜ そ う し て き た か を 示 す 記 録 な の だ 。沖 縄 の 花 ブ ロ ッ ク や 世 界 中の同じようなブロックに囲まれて暮らす人びとにとって、それら ブロック壁はあまりに日常的で、身近にあるので目に留まりにく い 存 在 か も し れ な い 。し か し 、こ の 質 朴 で 多 様 な デ ィ テ ー ル に は 、 私 た ち が ど の よ う に 建 物 を 作 る か 、そ し て 作 る べ き か は 、私 た ち を 取 り 巻 く 世 界 に 対 応 し 共 鳴 す べ き だ 、と い う 思 い が 秘 め ら れ て いる。多くのものがそうであるように、このシンプルなブロックに も 、先 人 た ち の 物 語 や 歴 史 、こ だ わ り や 未 来 へ の 願 い が 込 め ら れ ているのだ。