豚バラ肉を黒糖と醤油でとろとろに煮込んだラフテー。苦瓜と豆腐を炒めたゴーヤチャンプルー。豚モツと椎茸を出汁で煮た中味汁。どれも伝統的な沖縄の郷土料理だ。長年にわたる中国や東南アジアといった異文化からの影響によって培われた沖縄料理は、沖縄の人々の長寿の秘訣とも言われるが、日本料理と比べてあまり知られていない。
1879年に日本に併合された沖縄の料理は、豚肉を中心としたメニューが多く、本土の日本料理とは異なる。併合以前、中国大陸と文化的や政治的な結びつきの強かった沖縄の食文化は中国色が濃く、ゆえに豚肉は沖縄料理には欠かせないものとなっている。地理的にも南にあり、亜熱帯気候の沖縄では、栄養価の高い野菜が栽培しやすい点も特徴だ。
20世紀初頭、多くの沖縄の人々がハワイへ移住した。オアフ島の沖縄料理レストランは数少ないが、異国情緒を味わえる本格的な沖縄料理に出会えることだろう。
サンライズ・レストラン
飾り気のない外観のサンライズ・レストランは、派手なネオン看板を掲げたカパフル通りのレストランに比べると控えめな存在である。レインボー・ドライブインやレナーズベーカリーのようなハワイの有名店のすぐそばにありながら見逃しがちだ。お腹をすかせた観光客が行列を作る店ではなく、少人数の客に居心地の良い店でゆっくり食事を楽しん でもらいたいというのが、オーナーシェフのチョカツ・タマヨセさんの モットーだ。
中へ入ると、意外にも家庭的な印象に驚かされる。親戚の家の夕食に呼ばれたような気分にすらなる。店内には、壁に家族の写真や思い出の品が飾られ、沖縄の民俗音楽が流れている。メニューを見ていると日本語の会話が耳に入ってくる。周りを見回すと外国人客は私だけだ。
1999年にチョカツさんと叔母のキヨ・イレイさんがオープンしたサンライズ・レストランは現在、チョカツさんと妻のともこさんが切り盛りしている。チョカツさんが子供の頃食べて育ったシンプルな沖縄家庭料理のメニューを提供している。オックステールスープは、肉が骨から落ちるほど柔らかくなるまで長時間かけて煮込んだ愛情たっぷりの看板メニューだ。沖縄そばは、そば粉で作るそばとは違い、うどんに似た太い麺で、ラーメンのような色の薄いスープに、ネギとラフテーの薄切りをトッピングしたシンプルなものだ。
チョカツさんが握る寿司は、どのプレートにも追加して注文できる。ぶ厚い切り身が並ぶ寿司カウンターで、その日獲れたての魚を慣れた手つきで捌き、目の前で寿司を握ってくれる。チョカツさんが毎日手作りする料理は、どれも数が限られているが、希望のメニューが売り切れたとしても、ともこさんが他のおすすめ料理を作ってくれるので心配無用だ。
宴レストラン&ラウンジ
店に着くと、店内は多くの常連客や私のような初めての客で賑わっている。この店を勧めてくれた友人が、平日のランチ時間帯は決まってこうだ、と教えてくれる。
「宴=集う場所」という名前がぴったりの店だ。2001年にオーナーのジョセリン・コシモトさんがカリヒの中心部にオープンした宴レストラン&ラウンジは、ホノルルで最も人気のある沖縄レストランの一つだ。
「豚に始まり、豚に終わる」と言われるほど、豚肉が食生活の中心にある沖縄。宴でも多くの豚を使ったメニューを味わえる。豚ばら肉の厚切りを黒糖と醤油でゆっくり煮込んだ看板メニューのラフテーは、白米にのせたり炒め物に混ぜる。玉ねぎと砂糖でシンプルな味に煮込んだ豚モツ薄切りは、炒め料理にしたり、こんにゃくや椎茸とその戻し汁で煮たスープに入れて食べる。そして沖縄料理を語る上で欠かせないのが豚足だ。宴では、大根と昆布とからし菜にたっぷりの豚足が入ったスープを味わえる。
居酒屋成ル
ワイキキからほど近いエリアにある隠れ家的な居酒屋成ルでは、沖縄焼酎の泡盛、牛タンの塩焼きなど、沖縄を中心とする美味しい居酒屋料理と沖縄のオリオンビールを深夜まで味わえる。店内は、友人との楽しい談話や美味しい酒と肴を楽しむ国際色豊かな客層で賑わっている。
この10年、ホノルルには多くの居酒屋がオープンしている。居酒屋成ルは、日本国内に9か所の店舗を展開する居酒屋チェーンが海外にオープンした店だ。店内は、木目のインテリアに磨き上げられた木製のテーブル、和風のカウンター椅子が置かれた素朴な印象だ。
店に着くと、BGMに流れる歌謡曲が聞こえないくらい会話が賑やかに行き交っている。こじんまりとした店内には30人も入れば満席なので、予約をしていない場合には待つ覚悟が必要だが、その価値は十分にある。
私は人気メニューの一つであるタコライスを注文した。タコライスもまた、外国の食文化の影響を取り入れてきた沖縄料理ならではのメニューのひとつだ。第二次世界大戦後、米軍基地が建設された沖縄 では、西洋料理が食べられるようになり、アメリカ人の間で人気のあった 味の濃いひき肉を使ったタコスを地元のシェフたちが作るようになった。居酒屋成ルのタコライスは、熱々の石焼鍋に入ったご飯に、スパイスの効いたひき肉、生卵、細切りキャベツ、玉ねぎ、トマト、チーズといったタコスのトッピングを混ぜ合わせて食べる。どの料理にも沖縄名物の泡盛が合う。居酒屋成ルでは、自社製の泡盛も扱っている。初めての人は、何種類かをテイスティングできるフライトを注文して飲み比べるのもおすすめだ。